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HOME > コラム『国際会計基準が我が国にやってくる!』~加賀屋純一のIFRS最新動向

コラム

第2回「包括利益」
包括利益はIFRSの資産負債アプローチの利益

このIFRSセミナーでは今後、個々のIFRS基準書について簡明に解説していきますが、その理解のために、特徴的で、あるいは共通的な概念として、本稿では包括利益の定義やや留意点について触れておきます。
IFRSの日本基準との比較などから特徴として挙げられている「原則主義」「貸借対照表(財政状態計算書)重視主義」「公正価値会計主義」などの反映として、利益測定の概念が「収益・費用アプローチ」から「資産・負債アプローチ」の採用が前提であり、その結果、「純利益」よりも「包括利益」を重視する考え方が主流になってきます。

「包括利益」は国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)共に導入されますし、日本基準においても、ASBJ(企業会計基準審議会)とIASBによるコンバージェンス・プロジェクトとして「財務諸表の表示」に関する審議の中で、議題として取り上げられています。もちろん日本基準の中で採用が決定しているわけではありませんが、「包括利益」の採用の潮流は避けることができないものになっています。


包括利益とは

それでは包括利益とは何か。いち早く包括利益の概念を採用している米国での定義を示している米国財務会計概念書(1985年)では、包括的利益とは、出資者以外の源泉からの取引その他の事象及び環境要因から生ずる、一期間における営利企業の持分の変動と定義しており、資本取引によらない企業の純資産の変動額を意味しています。

また、米国財務会計基準書130号(1997年)では、包括利益は、純利益を含む包括利益のすべての構成要素の合計額と定義して、純利益とその他包括利益を包括利益の構成として区分しています。これらの定義や区分は資産・負債アプローチを前提にしていますが、その計算構造を簡単にまとめると以下のとおりとなります。(図表1参照)

※図表1:純資産増減と損益

■貸借対照表(財政状態計算書)上の計算
 資産の増減-負債の増減=純資産の増減
 純資産の増減-資本取引による純資産の増減=包括利益
■損益計算書(包括利益計算書)上の計算
 収益=資産の増加、負債の減少による包括利益の増額要素
 費用=資産の減少、負債の増加による包括利益の減額要素
 収益-費用=包括利益

 包括利益=純利益(実現利益)+その他包括利益(未実現利益)

この純利益は、当該会計期間における業績として、その他包括利益に該当しない収益、費用などから算定される測定値であり、収益・費用アプローチの利益を基にした利益です。
また、その他包括利益は期間業績に含めることは妥当ではない純資産の変動額ですが、その中に含まれる項目は、「その他有価証券評価差額金」、「為替換算調整勘定」、「繰延ヘッジ損益」などであり、国際的な会計基準(IFRS、米国会計基準)や日本基準では具体的に項目が示されています。(図表2参照)

※図表2:その他包括利益の比較(日本基準:評価換算差額等)

わが国でも、1990年代のいわゆる会計ビッグバンにおける金融資産の時価会計等の導入や、平成17年公表の「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」、「株主資本等変動計算書に関する会計基準」等により、時には損益計算書の純利益よりはるかに多額の、しかも変動幅も大きな金額が、損益計算書を経由せず貸借対照表の純資産の部の「評価換算差額等」に計上されています。これが「その他包括利益」に相当します。

「その他包括利益」は、損益計算書を経由することなく直接貸借対照表の純資産に参入されていますが、金額的重要性が増す中で投資家にとって分かりづらいとされる「その他包括利益」の会計処理の透明性を高め、さらには「純利益」より「包括利益」を重視する議論がIASBを中心に進められてきました。


クリーンサープラスの関係

これまでの会計処理で問題とされることに「クリーンサープラスの関係」があります。「クリーンサープラスの関係」とは、会計の基本的な原理の一つと言えることですが、貸借対照表上の「資本取引を除く純資産額の年度の変動額」と損益計算書の「当期純利益」が常に一致している関係を言います。(図表3参照)

※図表3:クリーンサープラスの関係

「その他包括利益」が発生しない場合はこの関係は成り立っていましたが、損益計算書を経由しない「その他包括利益」によって「クリーンサープラスの関係の崩壊」状態をもたらしています。このことは、「純利益」を対象とする「収益費用アプローチ(収益費用中心観)」を保持しながら、包括利益を対象とする「資産負債アプローチ(資産負債中心観)」を取り入れたことによる現象と言えます。

日本基準でも「純資産の部」において、「株主資本」と「評価換算差額等」を区分表示、つまり「純利益」と「その他包括利益」を区分表示することによって、「クリーンサープラスの関係」を維持し、包括利益を推定計算できるとも言えますが、「包括利益(包括利益計算書)」の採用によって、定義通りの「クリーンサープラスの関係」が回復するということになります。


包括利益の報告方式
次に、包括利益の報告様式には3通りの方式が存在しています。(図表4参照)

※図表4:包括利益の報告方式の状況

①1計算書方式
経営成績を報告する損益計算書の当期純利益の下に、その他包括利益の構成項目内訳及びその他包括利益合計、そして当期純利益との 合計である包括利益額をボトムラインとした配列方式であり、他の方式に比べ最も包括利益を重視した方式といえます。
②2計算書方式
当期純利益をボトムラインとする損益計算書と当期純利益の下に、その他包括利益の構成内訳及び、その他包括利益合計と当期純利益との合計である包括利益額をボトムラインとした、包括利益計算書の二通りの計算書によって報告する方式です。
③持分変動計算書方式
持分変動計算書において、当期純利益の下に、その他包括利益の構成項目及びその他包括利益合計と当期純利益との合計である包括利益額を配列する方式であり、包括利益をそれほど重視しない方式といえます。

IFRSでは、2007年9月に改正されたIAS1号「財務諸表の表示」において、1計算書方式と2計算書方式の選択適用となります。
我が国の会計基準では、現在はもちろん包括利益は採用されていませんので報告義務はありませんが、IFRSとのコンバージェンスの一環としてASBJにて検討されており、近々にも公表されようとしている「包括利益会計基準(案)」の公開草案では、1計算書方式(損益及び包括利益計算書)と2計算方式のいずれかの方式で表示されることになるようです。

また、2008年10月のIASBとFASBの財務諸表の表示に関する共同プロジェクトの討議資料(DP)として公表された「財務諸表の表示に関する予備的見解」にて、1計算書方式のみによる報告を求めています。
なお、米国会計基準は現在上記3方式の選択適用ということになっていますが、選択状況は③の持分変動計算書方式による報告企業が多いようです。


リサイクリングに注視

本稿の最後に「リサイクリング」について触れておきます。国際的な会計基準では、「その他包括利益」に関連して、「リサイクリング」処理を要求していますが、この「リサイクリング」に対しては批判的な意見も多く、財務諸表の透明性からも廃止すべきとの議論も出されています。したがって、国際的な会計基準やコンバージェンス対象としての我が国の会計基準の動向を注視していかなければなりません。
たとえば「その他有価証券」として処理される株式は貸借対照表上、時価評価されます。

(取得時) その他有価証券 1000 現金 1000
(決算時) その他有価証券 100 その他包括利益 100

一方、損益情報は実現主義に基づく「当期純利益」情報であるべきとの考えがあり、この評価差額(実は損益項目、この場合100)は純利益ではなく、純利益以外の損益として「その他包括利益」として計上することになります。
そして、売却等でその他包括利益に計上した利益を純利益で計上することになりますが、この処理を「リサイクリング」と表現します。

売却時) 現金 1200 その他有価証券 1100
その他包括利益 100 純利益 200

こうした振替調整による2段階の利益の計上は、恣意的な会計処理を介在させることになり、また、結局はこのリサイクル処理は持分内(純資産内)の振替処理であり、上記のようなリサイクリング処理は不要等が廃止意見の理由になっています。

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著者プロフィール

加賀屋 純一(かがや じゅんいち)
オフィス・ジェイ・ケイ株式会社 経営・会計研究所 所長

国内コンサルティングファームにて数百社の企業の経営改善・コンサルティングに従事しながら、様々な企業のシステム構築支援や大手メーカーの会計パッケージ開発等を手掛ける。2008年3月までエス・エス・ジェイ株式会社で、マーケティング、技術開発担当の取締役を歴任。SuperStreamの製品開発に深く携わりながら、様々な講演活動や業界紙への寄稿を行い、会計業務の動向を一早く発信するだけでなく、企業経営の見地に立った財務、会計業務のあり方を示唆している。



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